備忘録昨年書いたエッセイ
【1.インスタント時代~考える必要がなくなりつつある時代~】
著者の生活はここ5年ほどで大きく変化してきている。おおよその活動がインスタントで進行しているのである。例えば、著者の朝の行動が顕著である。起床後、最初に手に取るモノはテレビのリモコンではなくスマートフォンである。Facebookのニュースフィードを閲覧し友人の書籍レビューやamazonの広告からamazonサイトを閲覧しているうちに異なる本も気になり2冊を購入。これは朝食をとりながらわずか数十分の出来事である。この著者の一連の「ながら行動」の結果、著者のamazonでの年間購入金額は2010年では36,230円であったが、2011年以降にはamazonでの年間購入金額は10万円を超えている。たった1年で年間購入金額が約3倍に増加したが著者は気付かなった、さらにいうと考えることなく購入していたのである。著者の「考える」とは論理的思考を経て購入までに至ることである。著者が小学生の時、本屋に出向き該当の書籍コーナーに足を運び他の本も少し読んでから書籍を購入していた。書店に行くと1回あたり1時間から長い場合は2時間を消費したが、amazonを利用すればほんの数十分で事足りてしまう。著者の朝の生活のように自らモノを購入するために考えなくてもコンピューターでプログラムされたおすすめに従ってモノ・サービスを購入することや、GunosyやSmartNewsのようなスマートフォンアプリに代表されるキュレーションメディアはパーソナルデータをもとに趣味志向に合わせてウェブ記事を集めて表示してくれる新しいタイプのメディアであり新聞や雑誌の各ヴィークルから情報収集することなくすぐに知ることができるように、モノやサービスなどをすぐに受けることができる時代を著者は「インスタント時代」であると考えている。英語の”instant”を日本語に訳すると「即座」や「瞬間」と日本語で表現される。例えば食事の場合、インスタント食品と表示された製品ではお湯を入れる、もしくは電子レンジを使って温めることでほんの数分で調理が完了し胃を満たすことができる。しかし、我々は毎日インスタント食品を食べることはなく自分で食材を準備して料理を作り、また、レストランに行くこともある。我々の生活においてインスタント食品を食べることは調理時間や行動時間など時間という点においては効率的な時間の使い方と解釈できる。しかし、著者は我々が生活する視点でインスタント時代を捉えた場合、我々は「不幸せ」な人間になっていくと考える。なぜなら、我々はモノ・サービスの選択行動を通して楽しみや苦しみなど多くの思考を必要とすることで人間は進化してきたのであって「インスタント時代」はその歩みを鈍化または止める可能性があると著者は考えるからである。
【2. 人間の家畜化~時代は我々をどんどん家畜へ向かわせる~】
著者はインスタントな時代を創った大きな要因はテクノロジーの進化に伴って世の中のモノ・サービスがオートメーションされたことであると考える。コンピューターのプログラムにより、我々の生活は楽になりいつでもどこでも情報を取得できるようになった。しかし、様々なインターネットメディアを当たり前のように使う日常のなかで、我々の脳は少しずつ変化している。インターネットは注意を惹きつけるが結局はそれを分散させる。さらに記憶力も弱まり常に緊張して落ち着かない。ネットで外部記憶に頼ると弊害が発生する。人間の記憶のメカニズムは複雑である。機械と異なり人間の長期記憶は容量が無限大である。記憶をインターネットに頼ると記憶のプロセスがないため思考力が低下してゆく。特に近年利用者が増加しているスマートフォンの使用においても思考の低下が懸念される。例えば、スマートフォンに搭載されているGPSを活用したナヴィゲーション機能は脳内の海馬の発達に影響する。 脳の海馬は記憶や空間学習能力に関わる器官であり、我々が地図見ながら移動することは、「目に見える目標物から自分の要る場所を判断し、頭の中でどのように目的地までたどり着くかを導きだす」という高度な情報処理能力を要求される。しかし、スマホの位置機能はこの負荷を(善くも悪くも)大幅に軽減する(1)。 カナダのマッギル大学の心理学者のヴェロニク・ボボは、GPS機能を使い続けている人は、そうでない人に比べて情報処理に必要な脳の灰白質が小さくなると述べている。また、コンピューターやスマートフォンを見る際、我々はサイトからサイトに移り、ダウンロード中にメールをチェックするなどの「マルチタスク」をこなす。それぞれの作業に移る度に脳は「仕切り直し」を行っており、これを習慣化することで、脳は移り気になってしまう(2)。 つまり、すぐに注意力が散漫になり、作業に関する記憶力が弱くなることに直結する。 発達心理学者のパトリシア・グリーンフィールドは、スマホ・ネットの使用による弊害について結論づけている。画面を注視するテクノロジーは、私たちの視覚的・空間的能力を向上させるが、その分批判的な思考力や知識や想像力の習得といった他の知力の発達が犠牲になる(3)。 検索などを活用してすぐに答えらしい結果を見ることは、問題に対して論理的に思考する「筋肉」の低下にもつながる。他の動物に比べて我々は思考をもとに発明を繰り返しきたことにより進化してきたが、インスタント時代は思考する「筋肉」を鍛える場がどんどんテクノロジーによって失われていく。これこそが「インスタント時代」の最大の問題点であると著者は考える。著者は人間がこのまま考える習慣が減少した場合、飼育されている動物のような「家畜」となってしまうのではないかと危惧している。我々人間が「家畜」ではなく、人らしく生きるために広告業界で解決できる可能性について問題点を考慮しながら述べていきたい。
【3. 情報環境の変化~インスタントな時代はなるべくしてなってしまった~】
著者は「インスタント時代」は消費者が情報を欲しいがまま収集しようとした結果なるべくしてなってしまったと考える。情報量の増加は、1970年から本格化したブランド数の増加によって引き起こされ始め、1990年代にはすでに「消費者のあらゆる購買意思決定は混乱状況下で行われている」と指摘されている。 2000年代からインターネット環境の発達と浸透が進み、ネットショッピングという新たな購買方法が普及した結果、我々の生活環境を大きな変化が起こり続けている。そしてスマートフォンの普及によってさらなる環境変化に直面している。現在、16歳以上の男女で2015年6月に家庭のPC、スマートフォン、タブレット、従来型携帯電話(フィーチャーフォン)の4つのデバイスのいずれかを通して、ほぼ毎日インターネットを利用した人は5,610万人となり、16歳以上の人口の51%がインターネットを利用している。さらにデバイス別では、家庭のPCで2,165万人、スマートフォンで3,996万人となり、スマートフォンから毎日インターネットを利用する人がPCの2倍程度存在している。(4) 現在スマートフォンは我々がいつでもどこでも情報を取得することや発信することに容易なツールとなっている。一方、インターネットの環境変化は我々にいつでもどこでも情報を取得せざるおえない環境をつくってしまった。この情報環境の変化が「インスタント時代」を創りあげたのである。
【4. 情報の混乱~情報を判断することが不可能な時代~】
情報環境の変化は人間の情報処理に限界をもたらしているため、我々はコンピューターを利用して自動的に情報にフィルターかけて欲しい情報を抽出するオートメーションの仕組みを活用しており、今や我々の生活には欠かせない仕組みである。一方、そのオートメーションの仕組みはいつでもどこでも情報が取得できるインスタントな時代において、我々は情報に対して混乱した状態になっている。この情報に対して混乱した状態を「情報の量」と「情報の性質」の2つに分類して考察する。情報量の概念として選択肢過多がある。初期の研究では選択指数の豊富な場合は消費者にとって望ましく購買意思決定率を高める効果があると考えられてきたが消費者心理に基づく研究が進められると、逆に負の影響を引き起こすものとして指摘が増えていった。負の影響を引き起こす背景として選択肢数が増えることによって消費者は製品属性や便益に通じて他の製品と比較検討する傾向を強め、その過程で混乱を経験するためであると考えられている。「情報の性質」がもたらす混乱については「情報の類似性」と「情報の曖昧性」をもとに考えていきたい。前者の中でブランドの類似性が招く研究から考察を加えていきたい。ブランドの混乱は消費者が親しみのあるブランドの属性や成果に基づいて他のブランドの属性や評価を無意識に下してしまうと解釈されている。消費者はたとえオリジナルとは異なったブランドであっても、製品の内容や利用における類似性に帰属して対象を評価する傾向にあたるため後続ブランドはハロー効果を期待できる。そのため成功ブランドと似通ったネーミングや機能の有した製品が市場にたくさん存在している。また成功ブランドと似通ったブランド名やロゴ、パッケージを用いた模倣ブランドや小売店のプライベートブランドによって消費者は混乱を引き起こされ誤った意思決定を行う。さらに「情報の曖昧性」となると製品や広告による不確かな情報や誤解を招く情報、さらには曖昧な情報を処理する際の消費者の許容範囲であると定義されている。例えば、複雑なマーケティング刺激、曖昧な製品属性や誇大広告、不透明な価格設定、不十分な製品マニュアルが考えられる。(5) 「インスタント時代」において「情報の量」と「情報の性質」は、我々に正確に情報を取得した上で思考できる環境をとんどん不可能な時代へともたらしている。
【5. インスタント時代だから起きた社会問題】
「インスタント時代」は情報の混乱だけなく、社会全体にとって情報格差を創りだしており、結果として社会問題に発展する出来事まで起き始めている。前述に記載したインターネットの利用実態を考慮すると「インターネットを日常的に利用している消費者」と「インターネットを日常的に利用していない消費者」とはかなり生活環境が異なるのではないかと考える。「インターネットを日常的に利用している消費者」はSNSを常に日頃活用し経済問題や社会問題の「世の中ごと」から友人知人の近況や意見や関心事という「仲間ごと」など大量に情報が流れてくる。しかも3,996万人がスマートフォンを所有し朝から晩までスマートフォンを持ち歩き、トイレや電車でもスマートフォンを見ている。一方、「インターネットを日常的に利用していない消費者」は、たとえスマートフォンを購入しても検索行動をあまりしない消費者とすれば情報に対して非常に受け身であり情報リテラシーが低めかつネット上で起こっている情報の増加に触れていない人達である。情報洪水と言われている現在において情報に関して明らかな「ずれ」があるように感じる。
おりしも、9月1日オリンピック組織委員会による「今や一般国民の理解が得られなくなった」などとしてエンブレムデザインが撤回となってしまった。ここでは「一般国民」とは誰のことを指しているか実は明確ではなく、言い換えるなら「ネットで炎上したので、白紙撤回しました」という事実を「一般国民」という言葉にすり替えて撤回理由を説明していた。確かにインターネット掲示板「2ちゃんねる」では「お前ら大勝利!」「グッジョブ」など疑惑を指摘してきた人たちをたたえる書き込みであふれていた(6)。 このような発言から2ちゃんねるをはじめとしたネットの声が、いつの間にか「一般国民」に置き換えて、まるで世論であると錯覚している。
【6. インスタント時代に人間が「家畜」にならないために広告業界ができること】
「インスタント時代」は人間が多種多様な情報を思考する「筋肉」を鍛える環境がテクノロジーによって失われることで、人間は「家畜」になっていく可能性があり情報格差が社会問題まで発展していると述べた。著者は「インスタント時代」だからこそ広告業界が人間の家畜化を防ぐことができる業界ではないかと考えている。著者は家畜化を防ぐための最適解はいくつかパターンがあると考えている。ある最適解は社会活動プログラムであり、またある最適解は広告キャンペーンであるかもしれないが、我々広告業界ではそのどちらのような最適解を提案や実行することもできるし、何よりそれらを考えることに長けている。なぜなら、我々広告業界はクリエーティビティを社会に提供することで思考する「筋肉」を鍛えることに寄与し、人間を「家畜」から解放することにおいては、他業界に比べて創りだすことができる業界である。また我々は情報に混乱している消費者のインサイトを掴むこと、また掴んだインサイトをもとに消費者が欠乏している情報を有益なフィルターをかけてメッセージを伝えることすなわちクリエーティビティなアウトプットをビジネスの中心としている。さらに一つの単体企業だけでなく、制作会社、メディア、クライアント等多くの会社と協業をして1つのコミュニケーションを創る業界であるため他業種に比べて多種多様な最適解にも柔軟に対応できる業界ではないかと考える。なにより、広告に携わる人達は好奇心やユーモラスな心が備わっている点や柔軟な発想ができることを受け入れられる環境は他業種より優れているのではないか考える。ただし、現在、我々の創る広告は多種多様な情報を社会全体に送り出しており「インスタント時代」に加担している要因の一部分であることも忘れてはいけない。我々広告業に携わるもの一人一人が情報について真剣に考え広告を創らなければ、情報で混乱している人間を惑わせ誤った情報フィルターによって思考の「筋肉」が怠惰し、人間を「家畜」に仕向けてしまうだろう。
著者自身も「幸せ」な生活を望んでいる一人であり、「インスタント時代」における最適解を常日頃から導けるように「思考」をしていくことで広告業界の発展に貢献できるのではないかと考える。
参考文献(単行本, 雑誌論文, 新聞記事, インターネットで得た資料) 一覧
(1)ニコラス・Gカー,『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』(青土社, 2010)
(2) ニコラス・Gカー,『オートメーション・バカ -先端技術がわたしたちにしていること』(青土社, 2014)
(3)『Newsweek (ニューズウィーク日本版)』2014年 5/20号(CCCメディアハウス,2014年),2014.5.13
(4) ニールセン,「ほぼ毎日インターネットを利用する人は5,610万人~ ニールセン、デバイス毎のインターネット利用状況を発表 ~」,(http://www.netratings.co.jp/news_release/2015/07/Newsrelease20150728.html), 2015.7.28.
(5) 永井竜之介,「消費者の混乱に対するアプローチ」,『JAPAN MARKETING JOURNAL』Vol. 34 No. 4(日本マーケティング学会, 2015), pp. 185-193.
(6)「五輪エンブレム再公募」,『朝日新聞』2015.9.2. , 朝刊 , p. 1, 32